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2025.12.13 シロツユ。書きたいところを勢いで1日で書いた。いつもそうだ。出会った後のお付き合い前。ベンチの形状が間違っているけど許して。



 

 その夜、シローはZAロワイヤルに参加をしようかと思っていたのだ。ただ、何となく、自身の信念を心にもう一度刻んでから臨もうと、ジョーヌ広場へ足を運んだ。ジョーヌ広場……そこは先日、8番ワイルドゾーンへと姿を変えた。野生のポケモンたちをホロという壁で囲うワイルドゾーン。その撤廃がシローの目指すところのひとつだ。また増えてしまった。ワイルドゾーン撤廃のためにAランクを目指す。そのためにZAロワイヤルに参加をするのだ。
 8番ワイルドゾーンに近づくと、野生のポケモンたちの鳴き声だけではない音が聴こえる。これは闘っている音。誰かがワイルドゾーンにいるのだろうか? ホロ越しに覗いてみると、ギャラドスが闘っていた。大暴れしていると言ってもいいだろう熾烈さがあるが、暴走している様子ではない。むしろ、闘う本能のまま突っ込んでくる野生のポケモンたちを上手くあしらい、まとめて攻撃をする。荒っぽいけれど良い動きをしている。
(このギャラドスのトレーナーは……少なくとも自分は今までZAロワイヤルなどでも出会ったことがないのでは)
 シローはそう思い、ホロ越しにワイルドゾーンをぐるりと覗きこむ。ギャラドスのそばで指示を出しているトレーナーの姿がなかなか見つけられない。目を凝らしてようやく、ベンチに腰をかけている、ツユキの姿を見つけた。
 8番ワイルドゾーンがまだ普通のジョーヌ広場であった頃、ジョーヌ地区の人々の憩いの場所であったその場所で、ジョーヌ地区のアパルトマンに滞在しているツユキは、あのベンチに座ってのんびりしている事がよくあった。同じジョーヌ地区で道場を開いているシローは、ツユキと出会ってから、時たま広場で会話をしたりもしたのだ。……ジャスティスの会への勧誘はいつも断られていたが。
(あのギャラドスはツユキさんのポケモン……?)
 ツユキが普段連れているユキメノコやクチートと手合わせをお願いした事もあるが、雰囲気が違う。そして、大した指示を出さずともあれだけ闘えるのだから、とても長いあいだ一緒にいる相棒なのでは、とも思える。ふと、ボックスにひとつボールを預けてから仕合を始めていたことを思い出した。まだ闘うには至らない捕まえたてのポケモンを預けた、とどこか勝手に思い込んでいたが、もしかしてこのギャラドスを……隠していたのかもしれない。ぼんやり考えながらシローはワイルドゾーン内の光景を眺め続ける。
 しばらくして、ほとんどの野生ポケモンを倒してしまったのだろうか、静寂が訪れ、ギャラドスはゆったりとツユキに近づいた。そのギャラドスの頬を撫でるようにして立ち上がったツユキの動きがはたと止まる。夜、街灯は点いているものの暗がりの中、ホロ越しに、ツユキの表情は見えない。だが、顔はシローの方を向いている。シローが見ていた事にきっと気付いた。しばらく固まっていたが、ツユキは踵を返して、シローのいる側よりも遠い出口へと駆けて行った。大きなギャラドスがあとからついていきその姿を隠す。「そんな強いポケモンを連れていたなんて! ぜひ改めて手合わせを願いたい!」とシローの心に沸き上がったのは事実、だが追いかけようと足は動かなかった。なぜ今までギャラドスの存在を隠していたのだろうか、見られたくないことを見てしまったのだろうか。シローの中ではまだ言語化が出来ない気持ちが、心の奥底に一滴落ちて波紋のようにゆらゆらと揺れ広がった。ZAロワイヤルのことを忘れ、ただ漠然と、ツユキの去った先を見つめるだけ。

 カントー地方から短期留学という形でカロス地方、ミアレシティを訪れたツユキは、『ミアレシティに野生のポケモンが暮らすワイルドゾーンが出来た、腕に自信の無い者は入らないように』という情報は得ていたそうだが、オヤブンという存在は知らなかった。ましてや、ワイルドゾーンの中で出会うならともかく、迷い込んだ路地裏で遭遇するとは思いもよらなかった。驚いてへたり込んでしまったところにシローが助けに入ることができて、そこからツユキとの縁が始まった。いつの間にかシローの妹ムクとも仲良くなっていたが、その理由のひとつにムクとの共通点としてゴーストタイプのポケモン——ユキメノコを連れていることがあったのだろう。「あの時、驚いていなかったらもしかしたら闘えたかもしれなかったのだけど」とツユキは申し訳なさそうに改めて礼を伝えに来たこともあった。……あのギャラドスなら、あの時のオヤブンだったら苦戦も何もなかっただろう、とシローは思い返す。
 ツユキは滞在中に学業を修めることはもちろん、ミアレ美術館でアルバイトをしている日もある。そしてそもそもジャスティスの会に入ってくれないので、むしろ会わない日の方が元から多い。なのに、シローは数日ツユキの姿を一切見ることがなく、ざわめく心の奥底をどんな心の鍛錬で抑えればいいのかと答えを出せないまま過ごしていた。そしてどうやらツユキはムクともしばらく連絡をとっていないようだ。
「学業がお忙しいのでしょう」
 とシローはムクに言ってみるものの、ムクの相棒のシャンデラがどうも気にしているらしい。ゴーストタイプなどのヒトの精神や魂に影響を及ぼすポケモンが気にするとなると、ただ忙しいだけではないのかと思えてしまう。

 ある日、ようやく、ツユキからムクにメッセージが入る。
「久し振りになっちゃった。『かいでんのタネ』というものを持っているのだけど、ジャスティスの会の人が詳しいって聞いたの。ムクちゃん教えてもらえるかな、これ何だろう?」
 ムクももちろんわかることだが、このことをどう返事をしようか、そしてツユキから連絡があったことをシローに伝えるべきか、悩む。ツユキはZAロワイヤルに参加をしていないのだ。つまりメガリングを得ておらず、自身のキーストーンも持っていないはず。現状あまり意味がないアイテムである。そしてムクはツユキがバトルをあまり積極的に行わない人であると認識している、あまり喜ぶものでもないだろうと。
「あたしも教えられるけれど、道場に来てくれた方が早い。」
「カフェとかじゃ難しいかな?」
「皆伝に長けている人がいる。シローが居ないとき留守を任されることが多いから、そんな機会があったら連絡する。その時来れそうだったら来ること教えて。」
 少し間が空いて、「わかった、ありがとう」とツユキからの返事が届いた。
(シローと何かあった?)
 ツユキの返事や、ムクが返してみたメッセージ、そしてシャンデラの様子を見るに、やはりツユキの魂——心や気持ちが揺らいでいる。だが、ムクから見てツユキとシローがそもそもそんなに仲が良かっただろうかとも疑問が浮かぶ。まず、ムクとは連絡を取り合える仲だがシローとは連絡を取っていない……そもそもシローがスマホを壊すからムクがスマホを預かっているという理由もあるが。そしてツユキは元々シローの理念に賛同をしていない。でも、ならば、シローもここのところあまり落ち着いていなかったことが繋がる。ツユキと連絡をとれたことを、ムクはシローに内緒にすることとした。

 後日。ムクは道場前でツユキを待っていた。角を曲がり現れたツユキは、普段から下がった眉を更に申し訳なさそうに歪めている。
「たぶん、ツユキはそんなに喜ばない代物だけど」
「そ、そうなの?」
 少し目を泳がしながら「お邪魔します……」とツユキはムクに連れられて道場の中へ入った。
「シローの弟子、コタネ。彼女が詳しい」
 ムクに名を呼ばれ驚いたコタネが駆け寄って来た。ムクが端的に説明を促すと、コタネはツユキの持つ『かいでんのタネ』を確認して状況を理解したようだ。
「これを使って皆伝をすれば、メガエネルギーを消費して技を強く放つ『ワザプラス』がすぐ使えるようになりますよ! メガシンカができないポケモンでもメガシンカしたポケモンに太刀打ちできるようになります!」
 にこにこと教えてくれるコタネに対してツユキは「強くするものかぁ」とぽつりと呟いた。首を傾げるコタネに対してツユキは申し訳なさそうに笑って、
「わたし、ZAロワイヤルに参加してないようなトレーナーなの、もし良かったらこれらは道場のみんなに使ってもらったほうが良いのかも」
 と、そのままかいでんのタネをコタネに渡した。「えぇ!?」と驚くコタネと、予想通りとはいえ渋い顔をするムク。
「ムクちゃん、コタネさん、ありがとう」
 そう言って足早に去ったツユキの後ろ姿を、口をぱくぱくしながらコタネは見送った。
「え、えぇ……? だって、かいでんのタネを手に入れているってことは、例えばオヤブンには勝てますよね? ちょっとは強いトレーナーですよね?」
「そう。不思議なことにオヤブンを倒すと落ちていることが多い」
 コタネが受け取ったかいでんのタネをどうしようかと悩んでいる間に、シローが道場へ帰ってきた。
「戻りました、何か変わりはありませんか」
「それがシローさま、先ほど……」
 と、コタネは受け取ったいくつかのかいでんのタネを見せながら来客があったことを伝える。話しを聞いたシローは腕を組んで、
「せっかく道場へいらしたのに入会しないどころかかいでんのタネを譲っていく……自分の発言力が至らないことを痛感しますね。ミアレの人々にはもっと強くなってほしいのに」
 と、少し眉間に皺を寄せて残念がった。
「どんな方だったのですか? 今度見かけることがあったら教えてください。ぜひ、ジャスティスの会の良さをもう一度その人に伝えましょう!」
「はい! 女性でしたよ、銀色の髪で、淡い青色のショールをしていて……」
 元気よく応えるコタネの言葉を聞いて、シローは目を丸くした。
「ムクさまが連れてこられたのですよ、ってあれ? ムクさま? いつの間にお帰りになって……」
「ムクが……」
 シローは眉を下げて残念そうに首を振った。
「その女性、髪を少し高い位置で結っていました?」
「あ、そうです! あと白いブラウスで……シローさま、お知り合いでした?」
「……強いトレーナーですのに」
 少し悲しい顔をしたシローの顔を覗きこんで「やっぱり強いですよね!?」とコタネは声を上げた。

 空が紅色に染まる頃、ムクが再び道場を訪れた。道場にはゴーストタイプを扱う弟子たちが集い始めている。
「ムク」
 シローは少し眉を吊り上げて声をかけた。
「どうして」
 と、そこでシローは一度息を吸って吐いた。
「どうしてツユキさんと連絡を取れたことを教えてくれなかったのですか!」
「え?」
 てっきりコタネに丸投げをして勝手に帰ったことを咎められるかと思っていたムクは目を丸くしてシローを見上げた。
「ツユキさんとしばらく連絡をとってなかったと言っていたではないですか、シャンデラもそわそわしていて……でもツユキさんと連絡もとれたし何かあったわけではなかったのでしょう? 一言教えてくれても良かったではないですか」
「それを言ったら、何かあったのではと」
「え?」
 今度はシローが目を丸くする。
「ツユキ、シローを避けてないか」
「……」
 言葉を返さないシローをムクはじとりと見上げた。
「ツユキはミアレの人ではないし、積極的にバトルをしない。強いトレーナーの素質はある、でもしつこく無理に勧誘をしては……」
「そんなことしていませんよ!」
 シローは少しムッとした顔で返して、ムクは僅かながら驚いた。考えるより感情で動く兄だがここまで顔に出すのは珍しい。
「ただ、そんな人だからこそあの場に自分が居たのが嫌だったのかもしれません……ツユキさんにとって嫌なことかもしれないので自分からは話せませんが、聞けばムクになら教えてくれるかもしれないですね」
 シローは自分でそう言って、ひとつ心の中でモヤモヤしていたことが言語化できてしまったことに気付いた。

 かくとうタイプを専門とする弟子たちが帰っていき、シローも道場をムクに任せて、人の気配の減った夜のジョーヌ地区をゆっくり歩いた。その足は、また8番ワイルドゾーンへと向かう。——今夜も、ツユキはいないようだ。あの夜、たまたまツユキがいただけかもしれないのに、毎夜ツユキはいるのではないかと淡い期待を抱いていた。拳や勝負以外の対話が得意ではないが、何となくツユキとは改めて話してみたくなっていた。でもツユキは自分を避けている……『自分を嫌がっている』。
「タイレーツ、少し憂さ晴らしをさせてください」
 シローは8番ワイルドゾーンへ足を踏み入れるとタイレーツをくりだした。タイレーツではなく自分の憂さ晴らしのため。時々、自身も向かってくるワンリキーと拳を交わしながら。
「……またポケモンそのものと闘ってるー……」
 ふと、背後から声が聞こえて、その声の主を見たくて、シローは目を丸くして振り向いた。
「ツユキさん!」
「ちょっ……ごめん危ない、ワンリキーが来ます」
 そう言ったツユキはモンスターボールを投げ、現れたギャラドスはシローの横を駆け抜けるように飛んで、迫り来ていたワンリキーをノックアウトした。少し困ったような顔で笑うツユキは、いつものベンチへと向かう。やはり、ツユキはギャラドスに対して大きな指示を出していないようだ。ギャラドスは次々と野生のポケモンたちに勝負を仕掛けていく。「どうする?」とでも言いたげにシローのことを見上げるタイレーツに、少し悩んだが、
「自分の憂さ晴らしに付き合わせてすみません、タイレーツ」
 とボールを掲げた。タイレーツが戻ったボールを撫でて、シローはベンチに座るツユキに歩み寄った。
「今夜は、見ていても良いのですか」
 つい口から出た言葉にシローは己で驚いて、反射的にぎゅっと口を結んだ。
「見ていて良いも何も、わたしからギャラドスを出していますから……」
 ツユキはシローに視線を投げる事もなく、闘い続けるギャラドスを見つめながら返した。
「い、言われてみればそうですね……」
 シローはそれっきり続く言葉が出てこなくなり、少しの沈黙が訪れる。しばらくして、ゆっくりとツユキがシローに視線を投げかけ、
「シローさん、座ります?」
 とベンチの空きを少し広くするように端へと寄った。
「……では失礼します」
 大きなシローが座ると少しだけベンチが鳴く。ツユキが薄く息を吐くように笑った。前も、『ジョーヌ広場』で話しをしながらベンチに腰をかけたら、この音を聞いてツユキが笑ったことをシローは思い出した。
「……ジョーヌ広場がワイルドゾーンになっちゃったの、ショックでした。ここでのんびりするのが好きだったのに。」
 ツユキは静かに言葉を紡ぎながら、再び視線をギャラドスへと戻した。
「でもここはじめんタイプやかくとうタイプ、ほのおタイプがいて、ギャラドスととても相性が良くって。ま、あの子は多分タイプ相性をそこまで気にせず闘っちゃうと思うんですけど」
 シローはどう相槌を打っていいものかわからず、ツユキを見つめながら話しを聞くにとどまってしまう。
「普段闘わせてあげないから、こうやって好きに動いてもらうのにはちょうど良くて。ひどいトレーナーですよね」
「ひどい?」
 ツユキはシローの復唱には応えず、ぽつりと、
「でもやっぱり……シローさんには見られたくなかった」
 と呟いた。
「自分に?」
 降ってきた低い声にツユキはちょっと顔を上げて、
「あっ、えっと、もちろん色んな人に見られたくないですけれど……」
 と、バツの悪そうな顔をして再びギャラドスに視線を戻した。
「あの子、コイキングの時から、小さい頃から一緒で……カントー地方でジムバッジを数個得たのも全部あの子と。」
 ぽつぽつと話し出したツユキを
(やはり闘える人ではないですか)
 と思いつつもシローはその言葉はしまい込んだ。
「……だけどやっぱり、あの子が進化した時に暴れさせてしまった光景が目に焼きついていて、ユキワラシ……今のユキメノコと出会った時に、あの子と少し距離を取りたいって思ってしまって……それでほとんどモンスターボールに閉じ込めたまま」
 そう言って、普段ギャラドスが入っているモンスターボールを撫でるツユキ。その視線の先でまだまだギャラドスは野生のポケモンを相手に闘っている。
「バトルに秀でていて、そしてポケモンをワイルドゾーンから自由にしたいって言っているシローさんと、真逆でしょ」
 ツユキは、少しの陰りはあるものの、いつもの笑顔をシローに向けた。その表情と言葉が、シローの心の奥をかき混ぜるようで、シローは眉を下げた。
「それが、自分には見られたくなかった理由ですか?」
 うん、と頷くツユキに、
「なぜですか? 自分にだけ、見られたくない理由が多かったりはしませんか?」
 とシローは更に続けた。シローの言葉の意図がわからずツユキは一転、キョトンとした顔を見せる。
「え? えっと……?」
「色んな人に見られたくないと言った中で、自分が抜き出て『嫌』なのではと感じたのです!」
 つい、拳を握り声が少し大きくなったことにシローはハッとした。
「す、すみません、考えることが苦手とはいえ自分でもよくわからないことを……! 気にしないでください!」
「は、はい……」
 シローはため息をつき、握りこぶしを解いてベンチへ手をつく。……そのベンチの感覚がもぞりと動く。シローがその違和感に視線を手元へ落としたと同時にツユキが「あの……」と声を出す。シローが手をついたのは、同じようにベンチに手をついていた、ツユキのその手の上。
「ッ!? すみません!」
 慌てて手を離したシローに、ツユキはちょっと恥ずかしそうに笑って、そして次第におかしそうに笑った。シローはそのツユキの笑顔を見て、またむず痒い気分に陥った。

「満足した?」
 戻ってきたギャラドスの頬をツユキが撫でる。
「……進化させた時に暴れさせてしまったと言っていましたが、見るにツユキさんとギャラドスは良い関係に思えます」
 そう言うシローにツユキはまたもバツの悪そうな表情で、でも頷く。ギャラドスは、そんなことはむしろわかりきっているようだ。
「ツユキさん、やはり、ZAロワイヤルに参加してみませんか」
「え、でも……」
「お話しを聞くに、人とのポケモンバトルでギャラドスを出したくないということですよね」
 ツユキの視線がまた泳ぐ。
「ですが、見ていて確信しましたよ、あなたのギャラドスはそんな危ないポケモンではない、あなたのことをしっかり理解している相棒です……大丈夫ですよ!」
 シローは少し自信ありげに笑ってみせるがツユキはまだ迷いの表情を浮かべている。
「もし不安ならば、自分がサポートしますよ、一緒に行きましょう!」
「え、えぇ!?」
 ツユキが驚いて視線を上げる。
「でもわたし、そ、そんなお世話になるには……ジャスティスの会に入っているわけでもないのに」
「もちろん入会して頂くのが一番良いのですが」
「それはちょっと」
「何でですか!」
 ツユキはついおかしそうに笑って、そして少し考えて……もじもじと視線をシローへ向けた。
「それなら……嫌でなければ……シローさんの連絡先を教えてください……たぶんムクちゃんがスマホを持っているのでしょうけど」
「……!」
 ツユキの言葉を聞いて、パッと目を見開くシロー。
「はい! そしてまさにムクがスマホを管理しておりますので、後ほどムクに訊いてください、自分からも伝えておきます」
 そのシローの言葉と笑顔を浴びたツユキは大きな瞳を細めるように笑った。シローもその表情を見て、ふにゃりと笑った。
「でっ、でも、ZAロワイヤルに参加するとはまだ決めていないから! 結局連絡しないかもしれないですけれど!」
「そうですね、もちろん手助け不要で一人でご参加されるなら連絡はいりませんよ」
「参加すること前提で話しを進めないで!」
 もう、と笑いながらツユキは立ち上がり、ギャラドスの頬をもう一度撫でてモンスターボールへ戻した。シローも続いて立ち上がって、
「さて、あんまりの夜更かしは筋肉の育成に良くないですし、帰りましょうか」
「わたし特に筋トレ関係無いですけど……!?」
 と、今までの調子に戻りながら、二人でワイルドゾーンを後にする。

「あれ? シローさんこっちだっけ?」
 滞在しているアパルトマンに向かう道までついてくるシローを見上げると、
「夜道ですよ、せめて近くまで送らせてください」
 と、とても真面目な表情で返されたツユキは、
「えっ……ありがとうございます……」
と僅かに頬を染めて俯く。
(う、嬉しい反面、ジャスティスの会で有名な人だから夜とはいえ目立ちそうだけど……!)
 少し恥ずかしがるツユキの内心を知ることなく、シローはひとつ気持ちを言語化する。
『もう少しだけ一緒にいたい』
 ……でも、この気持ちが何の気持ちの延長なのかはまだわからない。
「ここまで来れば安心ですかね」
「はい、ありがとうございます……連絡しますね、おやすみなさい」
「……! おやすみなさい……!」
 ツユキの言葉に少し心躍る、どうしてこんなに嬉しく感じてしまうのか、シローにはまだわからない。