2022.04 ポイピク掲載
便宜上ゲーヨナだけどヨナ&ヒチの小話。拙宅世界線でR団は解散していない。
ここはカントー地方のタマムシシティ。
人々が多く集い、大型のデパートもあり、にぎやかな街だ。
まさに虹色のように輝く大きな街。
そんなタマムシシティに買い物に行きたいとヨナが言い出すものだから。
たしかに、自分たち…ゲーチスとダークトリニティの計4人が増えたのだ。
それにプラズマ団の城とは違い、ただの個人宅だ。
食事に日用品…ただそれだけでも今までの消費とは比べものにならないのだろう。
人間だけではない。ポケモンたちのものもある。
この狭い家で、ヨナの好むようにボールから出して食事ともなれば、なかなかな大所帯状態である。
もっとも、ダークトリニティの3人は自らで何とかすると断ったのだが、それを断り返したのはヨナだ。
ダークトリニティにとってヨナ自身はどうでもいい。
しかし今のゲーチスからしてみればそうではない。
さすがに護衛をつけないわけにもいかない……と1人、ヒチだけはついてきた。
「別に良いのに」
ヨナは笑って返した。
「わたしにとってホームみたいなものよ」
「……何かあればゲーチス様が落胆される」
あら、とヨナは驚いてみせる。
「ヒチにとってはどうでもいいのよね?」
「……ヨナ殿に危険が及ぶことか?それはもちろん」
あはは!ひどい!とヨナはケラケラと笑う。
「でも本当に、ここはホームみたいなものなのよ」
それは悪い意味で理解している。
四方八方から視線を感じる。
タマムシシティに集う輝かしい笑顔の人間たちとは違い、まさに裏側の人間たちの視線。
こちらに危害を及ぼすつもりはなさそうだが、監視されているようで気持ちの良いものではない。
それに、何より下手くそだ。
こんなバレバレな監視でよくやってこれたものだとヒチは逆に感心すらした。
買い物は本当につまらないものばかりだ。
食品も…ハピナスのたまごはもう食べたくないとゲーチスが拒否してから単純にレパートリーが必要になったらしい。
「美味しいのに。ハピママのたまご」
「……限度がある、ゲーチス様のお立場を考えろ」
あの時はほぼ病人だったじゃない……とヨナは困ったように笑った。
ふと。
ヒチは、視線の先にあるエスカレーター、そこから降りてきた子どもの姿が目に止まった。
リボンのついた大きなポケモンのぬいぐるみを嬉しそうに抱えている。
後ろに続くのは両親だろう。
全員がニコニコしながら、更にエスカレーターを降りていった。
あれが『普通』の家族。
「ヨナ殿は……」
つい言葉を漏らした自分自身にヒチは驚く。
いつもは生気の感じられない澱んだ瞳に、驚きという感情が灯って、その様子を見たヨナも目を丸くする。
「えっ?なになに?」
「い、いや、何でも……」
「ヒチから会話始めるって珍しいじゃない!」
ヨナは瞳を輝かせてヒチを覗きこむ。
ヒチは、このヨナのころころと変わる表情が苦手だ。上手く読み取れない。
常に張り付いた笑顔ならば、逆にわかりやすいものの。
ヨナには本物の喜怒哀楽と偽物の喜怒哀楽がある。その事に確信が持てたのも最近だ。
今もそう、輝いていた瞳はいつの間にかじとっと睨みつけているようにも見える。
はぁ、とヒチはため息をついて、ついさっき見かけた家族の話しをした。あれが『普通』の家族だろう、と。
「そうだろうね、お誕生日のプレゼントとかかな?」
それがどうかしたの?とヨナは促す。
「ヨナ殿も『普通』の家族を持っていなかっただろう。誕生日とやらを認識しているのか?」
ヨナはぽかんと口を開いた。
そして声をあげて笑った。
ヒチはギョッとして辺りを見渡すが、元々騒がしい店内、特に注目を浴びたわけではない様でホッと息を吐く。
「なぁに?お祝いしてくれるの?」
ヒチは眉間に皺を寄せて首を横に振る。
そもそも、もうこの話題をやめたい。
なぜ考えてしまい言葉にしてしまったのか、と目を閉じた。
「もちろん産まれた日なんて知らないわよ」
声が少し暗い。だがヨナはすぐに、ふふっと笑う。
「ボスに拾ってもらった日が4月7日だったらしくてね」
まさか? とヒチは目を開く。
悪戯っぽい笑顔でヨナは返す。
「そう、それで先輩のひとりがわたしの名前をヨナはどうかって言ったみたいで。冗談のつもりだったとは聞いたけど……わたしは呼ばれていた『ニンゲン』が名前だと思っていたんだもん! それよりは全然、マシでしょ?」
「マシ……それはそうかもしれないが」
「だから4月7日はわたしのお誕生日のみたいなものでチームではお祝いしてくれたのよ」
ヨナは少し目を細め、そして口を歪めてニヤッと笑った。
ヒチは少し嫌そうにそのヨナの顔を見下ろした。
今の流れからどういう意味の表情なのか、わかりづらい。
買い物を終え、デパートの外へ出る。
相変わらずお粗末な視線を浴びつつ、タマムシシティを後にする。
風がびゅうと吹き抜ける。
季節を彩る花びらが舞い散る中、ヒチは今日のことを後悔した。
暦のことなんか全く気にしていなかった。
それでも目にすれば、気が付いてしまう。
もちろん、知ったのはつい先ほどだが。
「いひひ、そうだよ、数日後なんだよね……お祝いしてくれても良いんだよ?」
「……全て作り話だったのだよな」
「それをするのは数日前だよ!」
ヨナは本当に楽しそうに笑った。
『普通』のそこらの人間と同じように眩しい笑顔は、今のゲーチスにあまり見せたくない、とヒチは強く思った
